雑誌ぽとらっく連載記事
いまどきの省エネ住宅(将来新築・リフォームをされる方に重要)
15年7月施行「シックハウス法改正」を検証する
タイムリーなお話として、シックハウス対策のための建築基準法改正をこの 7月1日より施行されることになっています。(原稿作成時点で未来形としました。/15年 5月に作成・後一部編集)
業界内では特に工務店、材木商クラスでは一騒動になっています。
さて、その中身と効果予想などをチョイスしてご一緒に検証してみることにしましょう。
3つのホルムアルデヒド対策とは
ア) ホルムアルデヒド入り建材の枚数制限の規制と白蟻駆除剤の有機リン系のクロルピリホスの使用禁止の各法規制で、今まで指針値だったためにお咎めがなく使用できたものができなくなりました。
遅すぎたくらいの当然のことですが、建材に使用されている合成化学物質の種類は300~500種類くらいあるといわれていますのでホルムアルデヒド1つの規制ではどのくらい効果があるかどうかというところです。
イ) また、今回屋根裏や壁内を含めた見えないところへの使用材もホルムアルデヒド揮発性等級、 使用枚数の制限を加えています。
すでに、 ホルムアルデヒドに対しては数年前からかなり悪者にされてきましたし、簡易的な個人が気軽に測定できるキットもあるくらいメジャーなので、 業界でも合板などには既に代替物質に移行している感もあります。(もちろん下げる努力もしているでしょう)
ウ) 機械換気設備の義務付けとあります。
機械換気設備とは、「24時間換気システム」と書かれているものばかりなので、今後すべての家には「ペットボトルハウス」のようにしなければならないということ?
とビックリしてあちこちに問い合わせるとハウスメーカーや大手換気設備機器メーカーの基準法改正相談窓口、某市の建築指導課の発言と、チマタの建材業界のウワサがすべて一致していました。
それは、「24時間換気設備システム」は「今後すべての住宅にも設置しなければならない」ということでした。(実際は換気扇数台の方法もあります)
ちなみに、「24時間換気設備システム」を設置するには1・2階の間の空間を必ず造り、タコの足のようなダクト(空気を送り込む筒)を這わせて部屋をつなぐ方法で、基本的には窓開けをせずに年間機械空調し続ける考えのものです。(春秋の中間期は不要といっているところもある)
24時間換気設備システムの本当の特徴
同システムは「ペットボトルハウス」と呼べるくらい気密性(高いほど隙間が少ない性能)が高い工法で、旧民家では隙間の性能の悪い木の建具(現在は高性能な木製サッシなどがある)や断熱材、防水技術などの点で隙間が多かったので、徐々に新建材も普及してきたが、さして問題になりにくいほど外気の循環が良く、その分寒かったのです。
このシステムのメーカーサイドの宣伝を集約した良い点を挙げると
① どこに行っても温度が均一になる。
② 気密性がかなり高いためエアコンの省エネになる。
③ 常にフィルターを通したクリーンな外気を一定に取り入れることができる。
④ 高性能なフィルタータイプは花粉症などの外からの異物を取り除くことができる。
私なりのそれぞれの見解を申し上げますと、①の、温度差をなくすことを温度のバリアフリーともいいますが、このシステムは家の中のバリアフリーだけであって、外気との温度差はかなり大きくなります。
たとえば旧民家の造りは、外との温度のバリアフリーの点では差が少ないことがわかります。
現代の温室育ちで汗腺が少なく体温調節ができ難い子どもや大人が多い。
エアコン漬けの現代の環境についての対策のお話を Vol.12 で書かせていただきましたので、省略しますが外と室内のどちらかに偏り過ぎない空間を造るべきと私は思います。
②は、かなりの高気密とエアコンは良いものとしたときが前提になります。
省エネとは今までより電気代や能力、消耗などが少ないことをいいますが機械空調を使用する前提では省エネになるほど利点ですが、エアコンそのものが身体や環境に良いものか、また高断熱のペットボトルハウスに住んだらどうなるかを真剣に考える必要があります。
高断熱のペットボトルハウスに住むとは
ペットボトルハウスに住むにはボトル蓋から給気、底から排気の機械換気する必要があります。
いわば密閉空間から酸欠死を防ぐための酸素ボンベの役割です。
ですから閑静な住宅街に家を建てても普通の家のように窓開けをし、風通しをすることは、このシステムの計画換気性が失われ、効率やムラのある換気になり、このシステムのファンも無駄に回ることになるので「あまり好ましくない事」になります。
命をこのシステムに預けて良いか
一番心配な点は、特に四季を問わず窓開けをせず機械空調し続ける工法なのであまりにも電気に酸素吸入を頼りすぎている点です。
船瀬俊介先生著「 『新築』のコワサ教えます」 (築地書館)によると、一家全員死亡した事例でその原因は「最新の高気密・高断熱住宅の地下車庫(道路より車が入り込む車庫穴を開けた土地の上に家を建てる手法) に止めた車のエンジンの切り忘れによる就寝中の一酸化炭素中毒で全員が死亡した」とありました。(車庫階段通路-部屋または車庫から換気システムへの給気につながっていた為)
また、福岡大学建築学科 故 須貝 高 教授のご研究の「高気密住宅(24時間連続換気状態)でのホルムアルデヒド濃度の経時・経年変化の測定結果」によると、「濃度は年々低下する効果は確認できたものの、朝の窓開けや外出時の玄関開けの動作で大量の換気量を確認した」(要約文)とあり、まともに窓開け換気をするほうが効果が大きいことを発表されています。
さらに、「換気システムが故障したらどうするのか」とも言及され、上記のご意見にはまったくの同感です。
省エネ、オール電化時代の疑問
「つまり命をこのシステムに預けて良いか」ということです。
酸素ボンベの空気を電気で送っているとしたら…停電でも同じことが言えます。
いまどき停電なんて…と、停電の記憶がないくらいライフラインの供給が安定していますが、記憶に新しい2000年 1月1日にコンピューターが止まると騒がれたいわゆる「2000年問題」のとき、私は当時大量にカセットコンロや固形燃料を買い込み、子どもがまだ二人ともオムツでしたので暖とお湯が一石二鳥の石油ストーブを用意したほどでした。
知人の警官に聞いたところ、1 日は横浜市の戸塚と栄区の一部で信号機が停電したとのことでした。
いまはライフラインがコンピューター制動しているのでウイルスやなにかの事故で停電する危険性はあり、原発問題からもご承知のように電気の安定供給神話は崩れつつあります。
あのストーブ状態でこの種の家を建て、あの時停電したら…と想像するとゾッとします。
「24時間換気システム」の換気ファンを太陽光や風力でまかなうものも出てきているそうですが、太陽や風頼みではまったく安心できないでしょう。
ペットボトルハウスに住んで焼肉その他料理のガスや、何かの作業にシンナーなどの工作、塩素漂白洗剤などの危険ガスを発する作業中のタイミングで換気システムの故障や停電が起きた場合、最悪は「エンジンの切り忘れ事件」と同じ結果になってしまいます。
③は、窓開けのほうが効果が多いようではホルムアルデヒド対策の効果も無いよりマシという程度になります。
④は、このシステムは極寒の北海道や劣悪外気環境の大都会では唯一許されるような気がします。(くどいようですがフィルターや製品としての安全性、耐久性、保守性、環境性などを含めすべてのリスクよりも必要性のメリットの方が上回ったと自己判断できるときを前提とします)
また、住み心地などは重要です。
民家風の家から換気システムのモデルに宿泊し、息苦しさを体感し断念したケースをご本人から聞かされたこともあります。
ファンの音が気になって眠れないなどもありイメージだけではなく決める前に五感で体感されることもお勧めします。
部分的な「省エネ」や「オール電化」 (太陽電池)が地球環境にも良いかなどの関連は Vol.13でお話しましたので省略しますが、化石燃料をそのまま効率よく燃やすことより遠まわしの設備が必要なのもほど全ての工程で環境破壊を与え、なおかつ効率が悪いことが多い。購入者の初期投入費・維持費を含め万全かどうか検討する必要があります。
最悪のシナリオがよぎる
結論的には神奈川県に確認したところ、「24時間換気システム」は義務ではないということでした。
しかし、最初ご相談した方は「システム利用は絶対」と話し、役所でも混乱や真実を知っている人はまだ一部という感じです。 (戸建業界全体として24Hシステム義務化としてほとんど認識してるようです)
これでは私のようにしつこく突っ込んで確認・質問しないかぎりこのシステムはウワサ通りみなさんのお宅も設置されてしまうことになります。(ちなみに居室がある確認申請が必要な全ての建築物やそのリフォーム:具体的には6帖を超えるスペースの改装工事から対象になりますが、この場合途中まで古いままならどう判断するのかは不明ですが・・・)
現在着工棟数の半分がハウスメーカー、もう半分は地元の工務店で占められていますが、この不景気と高齢化、少子化で着工棟数は尻つぼみの予測があり(既に現実問題に)、一方雑誌やテレビでは建築士やこだわりの工務店が建てたウッディーハウスが流行ってきていますので換気システムの機器メーカーやハウスメーカーのやっている工業化+換気システムが義務化すれば対応できない工務店(みんなハウスメーカーのようなつくりになる可能性もあるため)が多く特徴を失う可能性がある事態が予想されまさに工務店叩きの様相にも思えます。
自己防衛は知ることから
この調子では自分の家族のリスクをもう他人任せにせず、一番高額な買い物にもっと興味を持ちたいものです。
簡単にシステムを付けないケーススタディをしますと、1階あたり17坪の家の天井高を2.5mとし、基準の0.5回の換気回数(一時間あたりに外気が入替わる回数)で計算しても必要な換気量は約63m3/hとなり、よくトイレなどに使う一番小さな100φの換気扇の換気量が40~50m3/hくらいです。(150φは100~105m3/h)
居室空間を対象としていますのでトイレ換気扇から廊下を経路の空間に入れても63m3/hよりかなり少なくなるのでその一個の換気扇で風量としては十分にまかなえます。(もちろん坪数がさらに小さいほど有利です)
引き戸や通風可能な欄間を部屋の仕切りに設ければこの換気扇一個でまかなえるのです(ドアにはガラリやアンダーカットをすれば可能)
実際には天井が2.4mなどもっと低いことが多いですが設計士に計算して選定してもらうのがベストでしょう。(ちなみに材料の等級・枚数によっては換気回数は0.7回以上必要ですから「0.5」ですむ安全な材料を選んでください)
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