1.化学物質製造量の各情報の違いと不明確な実態

① 化学物質には、人工的に造られたものと天然のものがありますが、1950年代頃から人工的な化学物質が急に増え、現在、アメリカ化学会のケミカルアブストラクツサービスに登録されている化学物質は、人工と天然あわせて約1900万種類にもなっています。
これらのうち、日本でも約6万種類から7万種類の化学物質が製造・輸入され、販売されています。

参考書:浦野紘平編著「どうしたらいいの?環境ホルモン-身近にあふれる化学物質に対処する方法-」読売新聞社

② 従来、化学物質の管理については化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)が中心で、管理を要求される物質は第一種特定化学物質9種類と、第二種指定化学物質23種類、合わせて32物質という数少ないものだったが、現在日本国内では5万から7万種もの化学物質が製造されている。
今後、有害な化学物質が出てきた時には従来の化審法では対応できず、PRTR 法が有効となってきたのである。
PRTR 法では排出規制ではなく、排出している量を自主報告するという考え方が特徴である。

経団連クリップ NO.73 より引用

③ 現在世界には8万種の化学物質が存在しており、毎年2000から 3000種の新たな化学物質が製造されているという。
私達は日々様々な化学物質に囲まれて生活をしているので当然複合汚染とその人体に与える影響を考えねばならない。
しかしながら、あろうことか、化学物質が作用する可能性が大とされる神経発達毒性のテストは、この8万種のうちなんと 12種しか行われていないという。

中には神経に及ぼすメカニズムはある程度わかっている殺虫剤もある。
脳内の伝達物質に作用し、神経衝撃伝達や神経発達段階に悪影響を及ぼすそうだ。
特に神経細胞の拡散や移動が行われる妊娠初期、神経細胞の分化、接合が活発に行われる妊娠中期、そして脳が構造的、機能的に目覚しい進化を遂げる妊娠後期から 2歳までの幼児期は、特に発達障害を見る場合には脆弱な時期である。
この時期に受けた影響が後々生涯にわたって響くこともある。

参考:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 HPより引用

※世の中に開発されたものと製造物流されている化学物質製造量数は実際にはもっとはるかに多いと考えられる。

2.環境ホルモンとは

重さ単位
1μg(1マイクログラム)・・・・・・・・・・・0.000001g。100万分の1 グラム
1ng(1ナノグラム)・・・・・・・・・・・・・・ 0.000000001g。10億分の 1グラム
1pg(1ピコグラム)・・・・・・・・・・・・・・・0.000000000001g。 1兆分の1グラム

濃度単位
1ppm(parts per million)・・・・・・・・1,000,000(100万)分の1を表す単位
1ppb(parts per billion)・・・・・・・・1,000,000,000(10億)分の1 〃
1ppt(parts per tera)・・・・・・・・・・・・1,000,000,000,000(1兆)分の1 〃

また1兆分の1グラムとか、1億分の1、グラムといった、それまでの分析では無視されるような非常に微量な化学物質がこれほど大きな影響を生物に与えていたとは、誰も予想していなかった。
1兆分の1グラムといわれもどのていどのものなのかというと、50メートルのプールの水にたった1滴たらしてかき混ぜた程度の割合なのである。
そのため、今まで実施していた毒性検査ではチエツクすることができなかったのだ。

その結果、気がついたときには、生活のあらゆる場所に環境ホルモンがあふれていた。
DDTやPCB、ダイオキシンといった合成化学物は、体内に残留する性質があり、胎盤や母乳を通じて移行してしくのである。

人類は合成化学物質という魔法を手に入れることで、生活を豊かなものに変えてきた。
しかし、ここにきて突如、これら近代科学文明の象徴ともいうべき合成化学物質から手痛い報復を受けることになった。

“偽ホルモン〃で体内のホルモンがかく乱される

環境ホルモンとは、正式には「外因性内分泌かく乱化学物質」という。
食べ物などを通じ外から摂取することで、体内のホルモンを乱す作用のある人工の合成化学物質のことである。
環境中に存在し、ホルモンと同様の働きをする物質という意味から、「環境ホルモン」と呼ばれるようになった。
この言葉が日本のマスコミに初めて登場したのは、1997 年 5 月、横浜国立大学の井口泰泉教授のグループが、テレビ番組の中で意識に残りやすい言葉が必要だと考え名づけたものである。

これまでに人工的に合成された化学物質は、1500 万種類もある。
日常的に利用されているものだけでも約 10 万種類あるといわれる。
おまけにそれほど厳密な試験をされないまま、毎日約 3000 種類もの化学物質が新たにつくられているのだ。

現在、環境ホルモンと考えられている化学物質として、150種類ほどがリストァップされているが、正確なところは不明だ。
環境庁が 97 年7月に公表した報告書では、67種類の化学物質を環境ホルモンとしてあげている。
ただし、これは環境庁が独自の調査・研究に基づいて設定したものではなく、WWFが発表したものだ。
そのため、これはほんの一部にすぎない。
日常生活の中にこれだけの化学物質があることを考えると、今後の研究しだいで、その数が増えていく可能性が強いと思われる。
現に米国では 1万 5000種類の化学物質を検査する計画を立てている。

ちなみに人工的に合成した化学物質以外にも、もともと自然界に存在している環境ホルモンと同様の働きをする天然の化学物質がある。
主に植物などに含まれていることから、「植物性エストロゲン」
などとも呼ばれる。
エストロゲンは、女性ホルモンのことだ。
現在、20 種類の植物性エストロゲンが確認されており、これらを含んだ植物は、300種類ほど見つかっている。豆腐や味嗜の原料である大豆にもエストロゲンが含まれている。

これは植物が、草食性の動物や昆虫から身を守るために備えた防御手段の 1 つだと推測される。
女性ホルモンであるエスト□ゲンを多く摂取すると避妊効果があるため、結果的にその動物の数が滅少することになるのだ。
実際に、かつてオーストラリアで羊が減少するという出来事があった。
これは羊が食べていたクローバーに含まれている植物性エストロゲンが原因だと報告された。

ただ、今のところ、こういった天然の環境ホルモンをヒトが摂取しても、すぐに体内で分解され体外へ排出されてしまうために、悪影響を与えることはないと考えられている。
大豆からつくられる豆腐などは逆に体に良いとされていることからも、天然の環境ホルモンである植物性エストロゲンが、ヒトに対して害を及ぼしている可能性は少ないのではないだろうか。

超微量で作用する恐ろしさ

そもそもホルモンとは、「刺激する」という意味のギリシャ語に由来しており、生物の体内でさまざまな命令を伝達するための化学物質のことである。ホルモンも生物が本来持っている化学物質なのだ。
生物の体内における情報伝達方法には、ホルモンの他にも神経系があり、この2 つと免疫系が相互に協力し合いながら、生命活動を維持している。

ホルモンは内分泌器官である精巣、卵巣、すい臓、副腎、甲状腺、間脳、下垂体などから血液中に分泌される。血液に放出されたホルモンは、目的の器官や組織に命令を伝えるメッセンジャーの役割をしている。
たとえば、男性の精巣からは男性ホルモンであるアンドロゲンが放出され、女性の卵巣からは女性ホルモンのエストロゲンなどが放出されることで、男性は男性らしい、女性は女性らしい体型がつくられる。
すい臓から放出されるインスリンは、血液中の糖分をエネルギーのもとであるグリコーゲンヘ変える作用がある。
その他、体温や血圧、心拍数などさまざまな体内活動がホルモンによってコントロールされている。

さらに、ホルモンは前述したように、超微量で作用するという特徴がある。
1 ミリリットルの血液中に、10億分の 1 グラムとか 1兆分の 1 グラムの単位で含まれているだけで正常に作用する。
そのため合成化学物質のような偽物のホルモンが、ほんの少し体内へ入ってきただけで、大変なことになるのだ。

人体に巧妙に働きかけるメカニズム

環境ホルモンは、ホルモンと同様の働きをすることで、正常なホルモンの作用を乱す化学物質である。
なぜ、環境ホルモンと考えられている合成化学物質は、正常なホルモンと同様な働きをするのだろうか。

ホルモンは各器官や組織へ命令を伝達するための化学物質である。
目的の器官へ到達したホルモンは、その器官の細胞内へ入り、遺伝子の本体である DNAへ命令を伝える役割をしている。
ホルモンによって刺激を受けた DNA は、その命令にしたがったタンパク質をつくったり、細胞分裂を促進したりしている。

しかし、ここで重要なのは、ホルモンは常に目的とする器官や組織だけに命令を伝えるという点である。
そのため、ホルモンと命令を受ける器官や組織は、ちょうど鍵と鍵穴のような関係になっている。
ホルモンの命令を受ける側の器官や組織の細胞には、レセプター(受容体)と呼ばれるものがある。
ホルモンが細胞内の DNA へ命令を伝えるためには、そのホルモンだけに適合したレセプターと合体しなければならないのだ。
ホルモンが鍵で、レセプターが鍵穴だと思えばわかりやすい。

要するに、環境ホルモンと考えられている合成化学物質は、合鍵のようなものである。
本来は本物の鍵であるホルモンだけに適合するレセプターが、合鍵にあたる合成化学物質(環墳ホルモン)とも合体してしまうのだ。
その結果、合成化学物質がホルモンと同様の命令を伝えることになる。

逆に、合成化学物質がホルモンの働きを妨害する場合もある。
レセプターが合成化学物質と合体してしまうために、ホルモンがレセプターと合体できなくなり、命令を伝えることができなくなるのだ。
このように細胞にあるレセプター(受容体)が、合成化学物質(環境ホルモン)を本物のホルモンと間違えてしまうのは、合成化学物質の分子構造や性質がホルモンと似ているためだと考えられている。

さらに、合成化学物質によって、ホルモンを分解する酵素の働きが妨害されたり、狂わされたりする場合があることも指摘されている。
そのため、必要でなくなったホルモンや必要以上に分泌されたホルモンが分解されないことで、結果的に過剰のホルモンが作用することになったり、合成化学物質を分解する酵素がホルモンも同時に分解してしまい、ホルモン量を滅少させてしまうこともある。

ホルモンは、いうまでもなく、必要なときに必要な場所へ必要な量だけ作用することで、正常に機能する。
少しでもホルモンが作用するタイミングがずれたり、量が少なかったり多かつたりするだけで、生物の体にとって有害な結果を招くことになるのだ。

生物に与える具体的影響は

環境ホルモンは生物にさまざまな悪影響を与えている。
「奪われし未来」や環境庁が発表している資料などによれば、現在、環境ホルモンが原因ではないかと考えられている代表的な事例として次のようなものがある。

▽ハクトウワシのメス化

1950年代、米国フロリダに棲息しているハクトウワシのオスの約80%が、生殖能カをなくしていた。
また、その後、米国の五大湖周辺のワシにも同様な現象が起きていると報告された。
共に、DDT や PCBが原因ではないかと推測されるが、はっきりしたことは不明。

▽カモメのメス化

86・87年には、米国の五大湖周辺のカモメに瞬化率の低下、個体のメス化などのほか、メス同±で巣作りをするといった異常行動が報告された。
これも DDTやPCBが原因ではないかと推測されているが、はっきりしたことは不明。

▽アリゲーターのメス化

94年、米国フロリダのアポプカ湖に棲息しているワニの一種であるアリゲーターに生殖異常が起きていることが報告される。
オスのアリゲーターのペニスが正常なオスのものより 4分の1から 2 分の1程度小さくなっていたのである。
卵の艀化率も著しく低下していた。
調査の結果、オスのアリゲーターのホルモンが、メスのものとほとんど同じ状態になっていることがわかる。
これは 80年に近くの農薬工場から流出した DDT などの有機塩素系農薬が原因だとされている。

▽ミンクの減少

60年代半ば、米国五大湖周辺で毛皮用に飼育されていたミンクが、不妊のため全滅してしまう。
これはエサとして与えていた五大湖の魚に含まれていた PCB が原因だと推測される。

▽ピューマのメス化

95年、米国フ□リダでピューマの9割のオスの精巣に異常があることが報告された。
精巣が体内へ埋まってしまう精巣停留という症状である。
このため精子が異常になり、生殖がうまくいかず個体数も減少している。
明確な原因は不明だが、ピューマの体内から PCB などが検出されている。

▽アザラシの減少

1950年から 75年にかけて、オランダではゼニガタアザラシの個体数が激減した。
アザラシの体内からは高レベルの PCB が検出された。
86 年に発表された報告によれば、PCB汚染が進んでいる海域の魚を与えたアザラシは、正常なものより生殖能力が低いことがわかった。
88年にはスウェーデンとデンマークを結ぷ海峡にある島々で、アザラシがウイルスに感染して大量死した。
船底に貝が付着するのを防止したり、漁網の防汚剤として使用されている有機スズなどの環境ホルモンによって免疫力が低下したためだとされているが、はっきりとした原因は不明。

▽イルカの減少

カナダのケベック州では、シロイルカの個体数が激減していることが 95 年に報告された。
生殖機能の異常をはじめ、性別がはっきりしないものや免疫力が低下したものが発見されている。
これについても PCBや有機スズが原因ではないかとされている。
その他、80 年代後半から 90年代にかけて、世界各地でイルカの大量死が報告されている。
ウイルスヘの感染が主な原困だった。
調査の結果、大量死した個体のPCB含有量が正常なものの2倍から3倍あることがわかった。
PCBや有機スズなどの環境ホルモンによって免疫力が低下したためだと推測される。

▽日本ではコイや貝に生殖異常が

94年、国立環境研究所の堀口敏宏氏らによって、日本周辺の沿岸に棲息している巻き貝の一種であるイボニシのメスの大部分が、オス化してペニスができていることがわかった。
メスの貝にペニスができるようなことをインポセックスという。
イボニシのインポセックス化の原因は、有機スズ化合物ではないかとされる。
有機スズ化合物は、漁網や船底の防汚剤として利用されていたが、日本では 90年に使用が制限され、世界的にも使用目粛の方向へ進みつつある。
また、97年 7月から横浜市立大学の井口泰泉教授らが調査した結果、多摩川のコイの生殖異常が報告されている。
オスのコイの精巣が正常なものより小さくなっていたのだ。
多摩川の水を分析した結果、ノニルフェノールが検出された。
ノニルフェノールとは、工業用の洗浄剤などに使われているもので、英国の研究によりオスのニジマスをメス化する作用が確認されている。

ヒトヘの影響も続々と報告

環境ホルモンが原因ではないかとされる野生生物への影響は、そのままヒトにも当てはまると断定することはできない。
しかし、これだけ広範囲に、それも異なった生物種へ、環境ホルモンが原因ではないかと思われる異常な現象が及んでいることを考えればヒトも同じ生物である以上、同様の影響がないと否定するほうが難しい。
事実、環境ホルモンが原因ではないかと思われるヒトヘの影響も数多く報告されているのだ。

▽精子の減少

92年、デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームは、過去50年間に人間の精子数が半減していると発表した。
文献から20カ国の約-万5000人分の精液データを分析した結果だった。
その原因として考えられているのが環境ホルモンである。

このデンマークの研究チームの報告によれば、精子数の平均は、40年に精液1 ミリリットルあたり 1億1300万個だったものが、90年には、6600万個まで落ち込んでいた。
45%の減少である。
精液の量自体も 25%減少していた。
さらに精液1 ミリリツトルあたり 2000万個という極端に精子数が少ない男性の割合も 6%から 18%へ3倍も増加していた。
WHO(世界保健機関)では、1 ミリリットル中 2000 万個以下の精子数で、精子の運動率が50%以下の場合、不妊症であるとしている。

精子数が本当に減少していることになれぱ、これは人類の生存にとってきわめて深刻な間題になる。
事実、動物実験では、PCB などの環境ホルモンによって、精子や生殖器に異常をもたらすことが確認されている。
また、98年10月5日付の朝日新聞によれば、東京理科大などの研究グループが実施したマウス実験の結果、ディーゼル車の排ガスに精子の生産能力を減少させ、精巣自体に異常を発生させる毒性があることが明らかになったという。

その後、各国で独自の調査が実施された結果、この報告のように精子数の減少が確認されたものから、否定するものまでさまざまな報告が出された。
現在のところは環境ホルモンが原因となり、精子数が減少しているという決定的な結論は出されていない。
では、日本の場合はどうだろう。

帝京大学医学部泌尿器科学教室で、96年から 98年まで実施した調査結果では、WHOの基準を満たす正常な精液は、20 歳代の若者 34人中1人しかいなかった。
98年 7月、慶応大学医学部の研究によって、ここ 30年間に日本人男性の精子数が 1割ほど滅っていることがわかった。
これは夫の生殖能力に問題がある場合、夫以外の男性の精液を妻の子宮に注入して妊娠させるために収集された精液サンプルをもとにしたもので、約 2万 5000 人分の精液のうち、6000 人分のデータを中間集計した結果である。
慶応大学では、主に医学部の学生(18~25歳)が、精液を提供している。

この中間集計結果によれば、70年代には、精液 1 ミリリットルあたり平均約 6500万個の精子があったのが、80年代には約6300万個、90年代には約 5700万個と、約30 年間に 12%ほど減少していることがわかった。
とはいえ、この結果についても、環境ホルモンが原因だと判明したわけではなく、今後の研究を待たねばならない。
たとえ世界的に男性の精子数が減少していることが明らかになったとしても、その原因が環境ホルモンであるとは限らない。
精子数は生活習慣やストレスなどにも影響されるため同じ男性でも毎回精子数は変化する。
精子数の減少と環境ホルモンとの間にどの程度の因果関係があるのか、まだ研究が開始されたばかりなのだ。

▽ガンの増加

一般的にガンは、合成化学物質などによって遺伝子である DNA が傷つくことで発生する。
しかし、ガンの中には、ホルモンのバランスが崩れることによって発生するものがある。
ホルモンと関係が深いガンには、乳ガン、精巣ガン、子宮ガン・卵巣ガン、前立腺ガンなど性ホルモンに関連するものが知られている。

これら性ホルモンに関連するガンは、近年、世界的に増加傾向にある。米国の場合、男性のガンによる死因のうち、前立腺ガンによるものは、肺ガンに次いで多くなっている。
性ホルモンに関連するガンの原因がすべて環境ホルモンにあると断定されているわけではないが、少なくとも環境ホルモンがガンの増加に何らかの影響を与えていることは否定できない。

ホルモンのバランスが崩れることでガンが発生する二とは、47年に動物実験により明らかになっている。
ヒトの場合でも、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が一生を通じて多いほど乳ガンの発生率が増加することがわかっている。
これはある種のホルモンの量が増加すると、それを別のホルモンヘ変える機能が働き、そのときに毒性の強いホルモンをつくってしまうことが原因だと考えられている。
他の性ホルモン系のガンも同じような仕組みで発生すると推測される。
男性の精巣ガンや前立腺ガンは、男性ホルモンであるテストステロンが影響していると思われる。

マウスに対する試験によれば、妊娠中のマウスヘ超微量の女性ホルモンを与えただけで、生まれてきたオスのマウスの前立腺が通常より 3割も肥大し、男性ホルモンに対してより敏感になっていたことがわかった。
前立腺細胞が男性ホルモンに対して敏感になると、ガンになる可能性が増加する。
このようにエストロゲンやテストステロンと同様の性質を持つ環境ホルモンを多く体内に摂取することは、乳ガンや精巣ガン、前立腺ガンといった性ホルモンに関連するガンの発生率をアップさせる二とになるのだ。
また、女性ホルモンであるエスト□ゲンと同様の働きをする環境ホルモンによって、女児の発育が早まっているという報告もある。

▽免疫機能の低下

前述したように、世界各地でイルカやアザラシなどが大量死する事件が発生している。
これはイルカやアザラシがウイルスに感染したことが直接の原因である。
しかし、これほど多数のイルカやアザラシがウイルスに感染したのは、本来あるべき免疫能力が低下したためだとも考えられる。

ホルモンには、神経系や免疫系と相互に関連し、常に体内環境をより良い状態に保つような働きがある。
そのため、ホルモンのバランスが崩れることで、神経系や免疫系にも悪影響を及ぽすことになる。
体内でホルモンがかく乱されることによつて、生殖機能の異常だけでなく、免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなるのだ。

また、合成化学物質そのものが、免疫カの低下を引き起こすこともある。
PCB などの有機塩素系の化合物は、免疫機能を持つ胸腺リンパ球(T りンパ球)の分化.増殖をつかさどっている胸腺自体を萎縮させる作用が強いことがわかっている。
愛媛大学農学部の研究によれば、有機スズにも免疫機能を抑制する作用があるという。

▽異常行動の原因にもなる

ホルモンのバランスが崩れると神経系にも悪影響を与える。
神経系が影響を受けると異常な行動を起こすようになるのだ。
胎内、または生後まもなく PCBを摂取した実験動物は、成長後に異常行動をとることが多い。
PCBを与えられたマウスには、ケージの中をぐるぐる回り統けるものや、反応が鈍くなったり、学習能カが劣るものがあらわれている。

アカゲザルなどでも記憶障害や学習障害、運動機能の支障など同様のことが確認されている。
なかでも多動症と呼ばれる異常行動が、実験動物で多く報告されている。
これは最近、ヒトでも、低学年の児童の間で、授業に集中できないといった注意散漫などの症状により学習に支障をきたしている子供が増加していることと何らかの関係があるのではないかと疑われている。

また、自分の感情をコント□ールできないために、すぐにキレてしまい傷害事件を起こす若者が増加していることにも環境ホルモンが関係している可能性がある。
これは PCB などによって胎児期や乳幼児期に甲状腺ホルモンのレベルが異常になることで、脳や神経系に何らかの損傷を与えているためではないかと推測されている。
甲状腺ホルモンは胎児や生後まもない乳幼児の脳や神経系の発達に重要な影響を与えるホルモンである。

▽性のかく乱

男と女という性の違いは、受精時に決定されるというのが一般的な考え方だ。
ヒトは46本の染色体を持っている。
そのうちの2本が性染色体である。
性染色体にはX染色体と Y染色体があり、二の2本の性染色体の組み合わせによって性が決定される。

女性側の卵子には X染色体のみが存在し、男性側の精子に X染色体を持っているものと Y染色体を持っているものがある。
どちらの染色体を持っている精子と受精するかによって性別が決定されるのだ。
すなわち X染色体だけの組み合わせ「XX」の場合は女性に、X 染色体と Y 染色体の組み合わせ「XY」の場合は男性になる。
これは Y染色体にヒトを男性にするための遺伝子があるからだ。

しかし、厳密にいえば、二の段階では性別を決定するスイッチが入っただけにすぎない。
男にするスイッチ、女にするスイッチがオンになったからといって、正常にそのシステムが働かなければ何にもならない。
その性分化システムを担当する主役がホルモンなのだ。

ヒトをはじめとする哺乳類では、メスが基本の性となって性分化が起こるようになっている。
そのため、性染色体が XY という組み合わせで受精し、男になるスイッチが入ったとしても、適切なときに必要な性ホルモンが分泌されなければ男にはならない。
受精卵は受精後6週間の時点では、まだ男女両方に分化する可能性を秘めている。
そして、受精後 7 週間目に、Y 染色体が活動を始め、卵巣にも精巣にもなり得る生殖腺を精巣へと分化させるのである。
精巣ができると、精巣から男性ホルモンであるテストステロンが分泌され、男性生殖器を発達させる。

同時に、女性生殖器を退化させるホルモンも分泌される。
この時点で、精巣が正常に分化せず、男性ホルモンが分泌されなければ、自動的に男性生殖器が退化し、女性化してしまう。
なかには、男性ホルモンを察知する機能に障害があるために、性染色体の組み合わせは男性なのに、外見上は女性になってしまう人もいる。
また、性分化に影響を与えるこれら性ホルモンは、単に体の性別を分化させるだけでなく、脳の分化にも影響を与えることが明らかになった。脳にも性別があるのだ。

男性ホルモンの影響を受けることで男性の脳ができ、男性ホルモンの影響を受けないと女性の脳ができる。
これは胎児の脳が、ある時期にどれだけ男性ホルモンを浴びるかによって決定される。
一度、性別が決定された脳は、その後、変化することはないと考えられる。

このため、染色体の組み合わせにおいても、外見上においても正真正銘の男性なのにもかかわらず、女性の脳を持っている男性や、逆に男性の脳を持つ女性が存在している。
その結果、体と精神面での性のギャップに悩んだり、同性愛者になる人もいる。
ホルモンは性の分化にとって非常に重要な役割を果たしているのである。
環境ホルモンによって、性ホルモンがかく乱されることは、性の分化へも大きな影響を与える可能性があることを示唆している。

すでに、出生時の男女比が変化しているという報告もある。
普通は女子-1人に対し、1.06人の男子が生まれる。
だが、76 年、イタリアの化学工場爆発事故でダイオキシンに汚染された地域では、女子が男子の2倍近く生まれていることが96年に報告されている。

さらに、70年から 90年までの20年問に米国では0.1%、カナダでも 0.22%ほど男子の出生率が低下しているという報告もある。
デンマークやオランダでも同様の傾向が見られる。
このように特に先進国において、男子の出生率が低下しているのだ。
男の赤ん坊が減少していることから、この現象のことを「ミッシング・ベビー・ボーイズ」と呼んでいる研究者もいる。
これらの原因と疑われているのが、環境ホルモンである。

参考:地球に今、何がおこっているか/KK ベストセラーズより引用